第15回あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会
平成29年3月27日(月)14時00分より、全国都市会館の大ホール(二階)にて、第15回あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会が開催されました。この日は、「あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費の見直しについて(案)」という議題について検討され、承認されました。 本コラムでは、議事次第を参考に承認された「あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費の見直しについて(案)」と、検討委員会における主な発言を取り上げます。
議題
あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費の見直しについて(案)
厚生労働省提出「あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費の見直しについて(案)」
1.現状
○あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費(以下「あはき療養費」という。)は、平成26年度は計1050億円となっており、年々増加している。
○療養費については、償還払い(患者が一旦全額を支払い、保険者に療養費を請求)が原則となっている。
○しかしながら、現状でも、患者の負担軽減のため、保険者の判断で、患者が施術者や請求代行業者に療養費の請求・受領を委任する代理受領が認められている。療養費ベースで95%以上(保険者別の療養費と代理受領を認めている保険者の割合から推計。以下同じ。)が代理受領となっている。
○こうした中、後期高齢者医療制度におけるこれまでのあはき療養費の不正請求等は約9億5千万円となっている。
また、柔道整復療養費のように地方厚生(支)局及び都道府県(以下「地方厚生(支)局等」という。)が関与した受領委任協定・契約ではないので、施術者を登録・管理する仕組みがなく、地方厚生(支)局等による指導監督も行われていない。
2.不正対策
○柔道整復療養費について、受領委任制度による指導監督の仕組みがあるにもかかわらず不正が改善していないとの指摘があり、柔道整復療養費検討専門委員会で不正対策の強化について議論が行われているが、あはき療養費についても、指導監督の仕組みのみで不正が改善する訳ではない。
あはき療養費の現状を踏まえれば、不正対策はできることから前に進めていく必要があり、あはき療養費の不正を減らし質の高い施術を確保するため、後述する受領委任制度による指導監督の仕組みを導入することとあわせて、不正対策を実施すべきである。
○具体的には、あはき療養費の不正対策として、次のような不正対策に取り組むべきである。
その際、具体的な制度設計については、不正の起きにくい制度とするため、関係者の意見を十分に踏まえて、平成29年度中のできる限り早期に行うべきである。
(1)患者本人による請求内容の確認
○架空請求・水増し請求を防ぐため、患者本人による請求内容の確認を徹底すべきである。
(2)医師の同意・再同意
○虚偽理由による保険請求を防ぐため、医師の同意と、再同意の在り方を検討すべきである。
具体的には、同意を求める医師は、施術の原因となる疾病の主治の医師とするとともに、現在口頭での再同意が認められていることについて、一定期間ごとに医師が患者の状態や施術の内容・必要性等について確認し、再同意することについて、文書による方法も含めて検討すべきである。
また、厚生労働省は、同意書を書く医師に対して同意書の必要性や意義の理解の浸透を図るべきである。
(3)長期・頻回の施術等
○1年以上かつ月16回以上の施術について、支給申請書に施術の必要性を記載させるべきである。また、支給申請書に患者の状態を記載させ、疾病名と合わせてその結果を分析した上で対応について検討すべきである。
○また、後述する受領委任制度を導入した場合、過剰な給付となっていないかを確認するために、償還払いに戻せる仕組みについて検討すべきである。
具体的には、例えば、1年以上かつ月16回以上の施術について、分析の結果、施術の効果について個々の患者ごとに確認する必要があると合理的に認められた場合、当該施術については償還払いに戻せることとすることについて検討すべきである。
(4)往療
○往療の不正を減らすため、支給申請書等の書類で、個人情報に配慮しつつ、同一日同一建物に往療したことが分かるようにするとともに、施術者や往療の起点の場所、施術した場所が分かるように、見直しを行い、統一を図るべきである。
○また、施術料よりも往療料が多い現状を見直すとともに、施術料と往療料の包括化を検討すべきである。
(5)療養費の審査体制
○療養費の審査体制を強化するため、保険者等の判断により審査会を設置して審査できることとすべきである。厚生労働省は、審査会設置に当たっての要綱を定めるべきである。
○また、審査基準の明確化を図るとともに、請求の電子化、審査のシステム化、保険者を超えた審査など、効率的・効果的な審査体制について検討すべきである。
3.指導監督の仕組みの導入
(1)受領委任制度による指導監督の仕組みの導入 ○あはき療養費の現状を踏まえれば、不正対策として、何らかの形で、指導監督の仕組みを導入する必要があると考えられる。
○指導監督の仕組みとしては、まず、法律上に柔道整復療養費やあはき療養費を位置付け、現物給付の制度とすることが考えられる。しかしながら、この仕組みは、現在の保険者の判断で支給する療養費制度とは位置付けが大きく異なり、根本的な議論が必要となり、その導入は直ちには困難である。
○次に、あはき療養費に受領委任制度を導入し、指導監督の仕組みを導入することが考えられる。受領委任制度は、過去の判例等では、これを認めても弊害の生じる危険性が乏しく、これを認めるべき必要性、相当性があるなどの特別な事情がある場合に限って認められる特例的な措置とされているが、次の理由から、あはき療養費に受領委任制度を導入する必要性・相当性があると考えられる。
①あはき療養費が1000億円を超える規模となり、代理受領が95%以上となっているにもかかわらず、現在、ルールや指導監督の仕組みがないが、これを受領委任協定・契約とすることにより、ルールが明文化される。
②代理受領では、実態としては施術者のほか請求代行業者が代理請求・受領を行っているが、受領委任制度では請求の責任が施術者にあると明確に定められる。 ③不正請求に関して、地方厚生(支)局等による指導監督が行われる。
④不正請求に関して、地方厚生(支)局等による不正の認定に基づく受領委任の取扱いの中止が行われるとともに、当該認定を根拠とした、不正を行ったあん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の国家資格についてのあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律(昭和22年法律第217号)に基づく行政処分が行われることになる。
⑤代理受領から受領委任制度となっても、患者が一部負担で受領するということは変わらず、負担の変化によって給付費が増えるということはないと考えられる。 ⑥代理受領から受領委任制度となっても、請求者は、施術者や請求代行業者が施術者になるものであり、患者本人以外であることは変わらず、このことによって不正が増えるということはないと考えられる。 ⑦あはき療養費では医師の同意書の取得が支給の条件となっていることから、虚偽理由による不正請求は起こりにくいと考えられる。
○以上のことから、あはき療養費について、受領委任制度を導入すべきであると考えられる。
○一方、あはき療養費に受領委任制度を導入することについては、療養費は償還払いが原則であり、受領委任制度が導入されている柔道整復療養費について不正がある中では、保険者機能の強化や他の不正対策を行うべきであり、反対であるとの強い意見があった。 また、仮に受領委任制度を導入するとしても、まず、前提として、他の不正対策を実施して、その効果を見極めた上で、受領委任制度の導入を検討すべきであり、少なくとも、不正対策の具体案と合わせて、受領委任制度の導入を決めるべきとの意見があった。
○こうした意見を踏まえ、受領委任制度による指導監督の仕組みの導入は、不正対策とあわせて実施すべきであり、今後、その具体的な制度設計については、平成29年度中のできる限り早期に行われる不正対策の具体的な制度設計の内容が適切なものであることを見極め、確認することを前提として、関係者の意見を十分に踏まえて、平成29年度中に行うべきである。
○また、後述するとおり、不正対策については、受領委任制度の施行を待たず実施できる適正化策については、先行して実施すべきである。
(2)地方厚生(支)局等による指導監督等 ○地方厚生(支)局等による指導監督については、柔道整復療養費検討専門委員会での議論に基づく保険者からの情報提供や地方厚生(支)局の個別指導・監査の迅速化の取組などを踏まえ、あはき療養費についても効果的・効率的な指導監督について検討すべきである。
○その際、保険者から地方厚生(支)局に不正請求の疑いのある施術所についての情報提供をした場合に、その後の対応状況が分からないとの指摘があることから、保険者に対して調査の進捗状況を報告する仕組みについて検討すべきである。
○問題のあった施術所・施術者について、受領委任の取扱いの中止やあん摩マッサージ指圧師、はり師・きゅう師の国家資格についてのあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律に基づく行政処分を行い、実効性のあるペナルティを課す仕組みとすべきである。
○また、受領委任制度を導入することにより、施術所・施術管理者を登録する仕組みや、施術管理者に研修受講や実務経験の要件を課す仕組みとすべきである。 ただし、要件を課す仕組みの実施時期については、受領委任制度導入後一定の準備期間を考慮すべきである。 さらに、登録の更新制について検討すべきである。
○受領委任協定・契約の中で、施術録の作成・保存、不正請求の返還等について規定することを検討すべきである。
(3)地方厚生(支)局の体制
○あはき療養費に受領委任制度を導入するに当たっては、指導監督を行う地方厚生(支)局の体制の強化が必須条件と考えられる。 このため、厚生労働省は、地方厚生(支)局の体制の強化に取り組むべきである。
(4)保険者の裁量 ○現在、市町村国民健康保険の1割弱、組合管掌健康保険の約4割の保険者は、償還払いのみの取扱いとなっている。 償還払いよりも代理受領・受領委任の方が、一部負担の支払いのみとなるため患者の一時的な負担感や請求の手間が解消されるが、給付費が増えるため医療費適正化の観点からは償還払いが望ましいとの指摘や、架空請求や水増し請求が増えることから償還払いが望ましいとの指摘があった。 また、いかなる支給方法とするかについては保険者の合理的な裁量に委ねられているとともに、受領委任制度は保険者が地方厚生(支)局等に委任することが端緒とされており、保険者が合意しなければ受領委任制度は実施できない。
○これらを踏まえ、受領委任制度に参加するかどうかについては、保険者の裁量によることとすべきである。 その際、厚生労働省は、受領委任制度の適正な運営を図っていくことと合わせて、患者の負担軽減や不正対策などと受領委任制度の趣旨や意義の周知に努めるべきである。
4.実施時期
○厚生労働省は、上記について具体的な検討、関係者との調整を早急に行い、平成29年度中のできる限り早期に行われる不正対策の具体的な制度設計の内容が適切なものであることを見極め、確認することを前提として、受領委任制度による指導監督等の仕組みの具体的な制度設計について、平成29年度中に行い、平成30年度中に受領委任制度と不正対策をあわせて実施できるよう準備を進めるべきである。
○また、不正対策については、受領委任制度の施行を待たず実施できる適正化策については、先行して実施すべきである。
○上記の不正対策や受領委任制度の施行後も、実施状況を把握するとともに、検証を行い、検証結果に基づき、必要な見直しを行うべきである。
以上 (抜粋:第15回 あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会 議事次第)
委員会での主な発言
(受領委任制度導入時の検証について ※厚労省の補足)
【厚労省】受領委任制度導入における検証というのは、“施行後も”と記されている。“も”が入っていることは非常に重要で、これは“施行前”も行うということである。そのため、この記し方で問題はない。 (受領委任制度導入で弊害が生じる危険性が乏しいと証明できていない、という指摘に対する厚労省の説明)
【厚労省】受領委任制度の導入が弊害の生じる危険性が乏しく、と記している点の理由は、まず代理受領から受領委任になっても、患者が一部負担をすることは変わらず、支給額が増えることはない。これは“考えられる”としている。また不正が増えるかということは、代理受領から受領委任になっても、請求者は施術者や請求代行業者が施術者になるということであり、患者本人以外であることは変わらない。これにより不正が増えることはないと考えられる。そしてあはきでは医師の同意書の取得が支給の条件となっていることから、虚偽理由による不正請求は起こりにくいと考えられる。 (不正対策と受領委任制度実施時期、方法について ※厚労省の補足)
〇不正対策と受領委任制度は合わせて実施することと記しているが、前提として、不正対策の制度設計について見極め、確認がついているものである。
〇厚労省としては、あはきにおいて受領委任制度を導入する場合、人員強化は要請し、実現していく。効果的、効率的な指導監督のやり方も質、量、両面で関係者の意見を得ながら進めたい。 (受領委任制度導入について)
【施術者】代理受領では、責任の所在が曖昧になっている。不正対策も抑止力が限定的になると思う。そのため、指導監督と受領委任のセットが必要と考える。保険やお金に関わるところなので、早急に対応してもらい、より良い制度をつくりたいと考えている。
【保険者】保険者としては4月以降、徹底的に対抗していく。医師の毎回の同意を求める、機能していない柔整審査会のようなものではなく、新しい体制を構築することなど、求めていく。
【保険者】今後の進め方について、4月以降は相当な議論が必要となると考えられる。不正対策の1つ1つについて集中して議論する必要がある。10月間際にこれでお願いします、というやり方は受け入れられない。
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