石灰沈着性腱炎をおこす原因は石灰化にあった
「カルシウムが不足すると、骨が弱くなる」という事実は広く知られていますが、その結果が、時に石灰沈着性腱炎といった形で患者様の身体に別の問題を引き起こすことがあります。これが「カルシウム・パラドックス」と呼ばれる現象です。人体の最優先事項である血液中のカルシウム濃度を保つ働きが、結果として軟部組織への異所性石灰化を招き、急性の激痛の原因となってしまうのです。まず、この石灰化の原因となる根本的な仕組みを理解することが、適切な鑑別と指導の第一歩となります。(公開:2019年8月13日、更新:2025年10月28日)
骨代謝の仕組みと血液中カルシウムの決定的な役割
ヒトの骨は、一度作られたらずっと同じというわけではありません。古くなった骨を壊して吸収する骨吸収(破骨細胞)と、新しく骨を作る骨形成(骨芽細胞)を繰り返す骨代謝によって、骨の強度を保ちつつ、血液中のカルシウム濃度を調節しています。
骨吸収は破骨細胞が、骨形成は骨芽細胞がそれぞれ担っており、健常の人の骨代謝は骨吸収と骨形成のバランスが保たれ、身長の伸びと共に骨量は増加し、20歳前後から初老期まで維持されます。
カルシウムは人体内に含まれるミネラルであり、とても重要な成分です。99%のカルシウムは骨や歯を形成するのですが、血液中に存在する1%のカルシウムは、心臓や脳、筋を動かすという大変重要な役割を担っています。
人間の体を構成する60兆個の細胞はカルシウムの出す情報によって各々の役割を果たしており、カルシウムが無いと活動を維持することができません。この血液中のカルシウム量が不足すると、体は心臓の動きを守ることを第一に考え、自身の骨に貯蔵されているカルシウムを溶かして補おうとする働きが起こります。
「カルシウムが不足すると、骨が弱くなる」と言われているのは、「血液中のカルシウムを補うために骨からカルシウムが溶け出しているから」ということになります。むやみにカルシウムを口から取り入れるのではなく、“血液中のカルシウム量を保つこと”が重要です。
我々がこの骨の石灰化の原因を探る際には、まずこの骨代謝のバランスが崩れている点に注目すべきでしょう。
なぜ“パラドックス”なのか
血液中のカルシウム量のバランスが崩れると、関節の炎症を引き起こすだけではなく、他の臓器の細胞に有害になることがあります。
すい臓においてカルシウムは、インスリン分泌を促す役割を担います。カルシウムの働きが低下もしくは阻害されると、インスリンの分泌量が低下し「糖尿病」を引き起こす可能性があります。血管壁に付着して石灰化すると「動脈硬化」や「高血圧」を引き起こし、脳の伝達経路が破壊され「認知症」になることもあります。
このように、カルシウム量のバランスが崩れることで様々な器官に影響を及ぼし、多くの生活習慣病を引き起こす原因になることがあります。それでも血液中のカルシウム量が低くなれば、心臓を守るために体は血液中にカルシウムを溶かし続けます。
その結果、骨自体はもろくなるにもかかわらず、血液中や軟部のカルシウム量が増え、動脈硬化などの様々な疾病が起こる。これがいわゆる「カルシウム・パラドックス」と言われる現象です。
石灰沈着性腱板炎の鑑別と施術者としてのアプローチ
特に身に覚えのない、急激な痛みを伴う関節痛の原因として、血液中のカルシウムが身体の各関節に沈着し炎症を起こす「石灰沈着性腱炎(ハイドロキシアパタイト)」による痛みも多くあるようです。肩関節に発症すれば石灰沈着性腱板炎と呼ばれますが、同様の症状は股関節、膝、肘、足、そして手首にも発生します。
いわゆる「四十肩」「五十肩」と呼ばれている症状と間違えられがちですが、手関節や手指に起こった場合を含め、特にケガをした覚えがないのに急に痛み出し、熱感や腫れを伴った際には、単なる使い過ぎとせずに石灰沈着性腱炎を疑ってみた方が良いでしょう。
この石灰沈着性腱炎の痛みを引き起こす燐酸カルシウムの石灰化は、現在のところ明確な原因が証明されていません。ただ、元来カルシウム不足である日本人に多く、その中でも女性、特に閉経後に多く発生することから、骨代謝のバランスや女性ホルモンが関係しているのではないかと考えられています。整形外科では治療薬としてカルシウムを処方しているところもあるようです。
血液中に存在する1%のカルシウムが関節に沈着して、何かしらの刺激によって骨液胞内に流入した場合、体が異物と判断して攻撃するため、炎症となり激痛が起こります。石灰沈着性腱炎においては、ホルモン、カルシウムの代謝や骨粗しょう症にもアプローチしていく必要もあるのではないでしょうか。
こういった症状は、いろいろな手技を加えてみてもなかなか良くなることはなく、まずは安静にすることが一番です。また、熱感、腫れを伴う場合は、十分にアイシングをすることが大切です。
カルシウムと日本人
世界全体から見ても、日本人のカルシウム不足は顕著です。その要因には、以前のような魚主体の食生活でなくなって来たことと、地理的環境が挙げられます。火山国である日本の土壌には、ヨーロッパやアメリカに比べカルシウムが少なく、河川の水にもカルシウムは少ししか含まれていません。
日本の土壌で育った作物を食べ、カルシウム分の少ない水を飲んでいる日本人は、もともとカルシウムを摂取しにくい環境で生活していると言えます。そのような環境において、不規則な食事や無理なダイエットなどでカルシウムの摂取量が極端に足りない人、日光に当たることを頑なに避け、カルシウムの生成に必要なビタミンDが不足している人は、血中カルシウム濃度がどんどん低くなり、その分骨からカルシウムが溶け出し、「カルシウム・パラドックス」や「骨粗しょう症」を引き起こすリスクが格段に上がります。
私たち柔道整復師は、急性期の処置だけでなく、骨代謝と栄養の視点から患者様の身体作りを提案していくことで、「カルシウム・パラドックス」や「骨粗しょう症」を予防し、真の健康へと導く重要な役割を担っているのです。
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