1. HOME
  2. 記事
  3. 接骨院勤務日報
  4. 接骨院勤務日報【#9~#12】
接骨院勤務日報【#9~#12】
2020.08.13

接骨院勤務日報【#9~#12】

寝坊したことで、身だしなみも十分にできず出勤してしまった<僕>は、院長から「患者さまにとって、あなたは100%の状態で初めて商品になる」と諭された。施術がしたいと言う気持ちが先走り、社会人としての基礎的な考え方ができていなかった、ということを感じたのだった。

第9話:副院長の不満

この出来事で、社会人としての甘さに気づかされたことは、今でも本当に感謝している。

先輩たちの中でも遅刻する人がたまにいたが、身だしなみだけは全員完璧な状態で出勤してきた。

しかも、申し訳ない顔を一つもせずに、焦ることなく、何食わぬ顔でスタッフルームに入っていく。いかにも「用事があって遅れてきました」みたいな感じを醸し出している。



役者だ……!



しかし、昼休みになれば先輩後輩も関係なく、遅刻してきたことを一人ひとり謝罪して回る人たちばかりだったので、そういうところは尊敬できた。


そして、田島さんは絶対に遅刻しなかった。
どれだけ忙しくても、どれだけ遅く帰っても、だ。
(肌も荒れていなかったらしく、他の女性スタッフが羨ましがっていた。)






そんな出来事もあり、何とか仕事にも少し慣れてきた頃、副院長の大嶋さんに飲みに誘われた。


大嶋さんはすごく努力家で、いつも患者さまから神様扱いをされているぐらい凄腕の先生だ。普段は物静かで、徹底した聞き役を演じることができるベテラン




と思いきや、何と去年に新卒で入社されたとのこと!

田島さん以外でプライベートな話をする先輩はいなかったから、今回のお誘いは嬉しかった。田島さん以外の先輩方のことも知りたいと思っていたので、色々聞こうと思ったし、僕もたくさん話そうと決意した。





大嶋さんとの会話は、それはそれは楽しかった。

なぜかというと、勉強しているジャンルが一緒だったのだ。

僕より先にそのジャンルに興味を持っていたようで、勉強会にも通い始めていたらしい。聞いてみると、僕が知っているところとは違うようで、抗議の内容も少し変わっているみたいだったため、これはチャンスとばかりに情報交換をした。

お酒が入り、良い感じに酔いが回ってきたとき、少しだけ院の施術方針について話題がでた。そして、




「実は、院の施術方針の中であまり納得できない部分があるんだ」と大嶋さんが切り出した。




大嶋さんが話す内容は、確かに的を得ている部分もあったので「僕もそう思います」と伝えたら、理解者を見つけた嬉しさからか、そこから大嶋さんのテンションが急上昇、他にもいろいろと話し始めた。



院長に対すること。
他のスタッフのこと。
会社のこと。

中には不満じみた言葉もあったが、僕はそれに頷きながら耳を傾けていた。

気づけば終電間近で、二人で急いで電車に乗った。








次の日は、なぜかすっきりしない目覚めだった。

第10話:不満の行き先

スッキリとしない目覚めから、一日が始まった。



ただ仕事が始まれば、気分の良い悪いに関係なく集中できるようになってきた。少しだけ、成長した証なのかもしれない。

昼休憩のとき、どうしても眠気が払いきれず、少しだけ仮眠を取ることにした。僕が仮眠を取ることが珍しかったのか、田島さんが「寝不足?」と、すかさず突っ込んできた。さすがよく見てる。


「ちょっと…そうですね。」と、自分でも煮え切らない返事をしたな、返事を失敗したなと思ったし、田島さんのレーダーにはバッチリ引っ掛かったみたいだ。

「よし、じゃあ今日も寝不足にしてやろう!」と飲みに誘われた。…この人鬼だ



でも、今日は奢ってくれるみたいだし(この前は割り勘だった)、気になることもあったので、最大限の作り笑顔で「ありがとうございます!」と言った。

田島さんには「あんまり乗り気じゃないならいいけど?」と言われたので、作り笑顔がバレた!?と思い、焦って「いえ、本当に行きたいのでお願いします」、と言ったら、満足したように笑顔で背中を思いっきり叩かれた。



危なかった…。



この田島さんとのやり取りを大嶋さんも聞いていたようで、田島さんが離れて行ったあとに小声で






昨日のことは話さないように、と言われた。





これが板挟みというやつなのか?
複雑な心境で、午後の業務を終えて田島さんと焼き肉を食べに行った。



お酒を頼んで、乾杯をした直後、


「大嶋さんに何を言われた?」


田島さんの第一声で、ビールで吹き出しかけた。


人生で一番、盛大に咽たと思う。

僕と大嶋さんがご飯に行ったことを知っている?なんで?誰から聞いた?

「大嶋さんと君がご飯行ったことぐらい、みんな知ってるよ」と田島さんに言われ、
なんだそうか皆知ってるのか、とホッとした。











いやいやいや、違う違う。

なぜ僕が、大嶋さんのことで複雑な心境になっているということを知っているのか、だ!


田島さん曰く、僕の顔にそう書いてあるらしい。そういうところが、まだまだ甘いと、笑いながら叱られた。

「君から聞けなくても、明日大嶋さんにも確認するから」と言われたので、観念して全部話した。



一通り話し終えて、田島さんは「君にも同じような話してるんだね、大嶋さんって。」と一言漏らした。
田島さんも大嶋さんとたまに飲みに行くことがあるらしく、その時には僕と話したような内容もよく話題に出るとのこと。

田島さんも、そういう感情を抱えながら毎日仕事をしているんですか?と聞いてみた。

そりゃあるに決まってるやん!と、笑いながら答えてくれた。

しかし、すぐにその笑顔をスッと消し、


「でもね、





新人に対してする話じゃないな。」






田島さんは、今後もし同じような話をされたら、どう対応すれば良いかを丁寧に教えてくれた。

まず上司から会社や院、スタッフの不満を聞くときは、それがどれだけその通りだと思っても同調しないこと。
でも、部下から不満を言われた場合は、状況を見て認めてあげることも必要にはなるらしい。

会社や院の方針が100%正しいなんてことはあり得ない。でも、私たちは会社員なんだから、会社の方針には従う事が必要だと。



じゃあその不満や不安はどうすればいいのだろう。



という考えが僕の顔に出ていたらしく、田島さんは焦るなと笑って言いながら、空のグラスを持ち上げビールを追加注文した。

第11話:提案することは誰でもできる

会社員として、会社の方針には従う事も必要。
それなら、会社や院に不安や不満があったらどうすれば良いのだろう。



すると、田島さんにアッサリ、


「会社や院に対しておかしいと思うことがあるなら、上の立場になればいい」

「自分で変えれば良いんじゃない?そうやって今まで改革ってのが起きてきたんだから」


と言われ、僕は妙に納得してしまった。




大嶋さんは、前職では結構上の役職に就いていて、当時は自分の思ったように環境を整えて結果を出してきたようだ。しかし、会社との意見がどうしても合わないことがあり、転職を決意したらしい。


それで、学校に行き直して国家資格を取ってしまうのだから、それはそれで凄いのだが。



田島さん曰く、大嶋さんは根っからの『良い人』で、曲がったことが大嫌い。会社のルーズなところも嫌いなのだそうだ。

田島さんも、「私も会社のそういうところ好きじゃないけど」と言うが、逆にルーズな部分があるおかげで助かっているときもあるとも教えてくれた。





確かにそうだ。




自分たちにとって都合の良いことは当たり前に受け取って、自分に都合が悪くなれば会社が悪いと思ってしまう。僕も、無意識に自分にとって都合の悪い時だけ、会社や周りに責任を押し付けてしまっているのかもしれない。



とはいえ、上の立場と言っても、そのポジションにつける人は限られてる。絶対そのポジションにならないと変えられないのだろうか。


田島さんは、僕の考えていることを読んだかのように
(もはやエスパー…、それとも僕が分かりやすいのか…)


「確かに上の立場にならないと決定権はないけど、提案することは誰でもできるよね?」

「不安や不満は提案に変えて発信しろって、どっかのラーメン屋の社長の本に書いてあったわ。そして、上の立場に立つ人間は、部下たちが考えてくれた提案を超える提案を出せないのなら、その提案を受け入れるべきだとね。」


まあ上は上で、部下に言いたい放題させるわけにもいかないんだろうけど。




まさしくその通りで、この時に感じたストンと腑に落ちた感覚は未だに残っている。
不満・不安を口にしても何も変わらないなら、提案すれば良い。
(たまにできないこともあるが)


田島さんは真面目な話をするときに雰囲気を変えてくれるので、僕は聞く体制を整えることができる




のだが、


毎回毎回、田島節が僕に炸裂なのである。そして気持ちよくなって酒が進む。
もちろん僕ではない。田島さんの酒だ



田島さんの話は勉強になるが、早く帰りたいという気持ちもある。
さすがに失礼かと思い、そういう気持ちは全力で隠す(なぜかすぐバレてしまうけど…)。


これから先、もし後輩ができたら、なるべく長時間引っ張りまわさないようにしようと、僕は密かに決意した。

でも、もしかしたら、こうした食事や飲みの席だからこそ、いつもと雰囲気を切り替えて話をすることができるのかもしれない、とも思った。
(そして数年後、そうでもないことに気づいた…。)




昨日に引き続き、今日も終電間際だった。

睡眠時間を計算して、その短さに軽い絶望を覚えながら、





明日の目覚めは良いのかもしれないと思った。

第12話:自慢の受付さん

今日も昨日と同じくらいの睡眠時間だったが、今日の目覚めは良かったと思う。

それでも、眠いものは眠い。



ああ、今日が仕事じゃなかったら、いつまでも眠れるのに。夕方になっても眠っていられるのに。

実際、仕事もプライベートの予定も無い日には、夕方まで眠ってしまうことも多かった。

そして、その時の後悔ときたら半端じゃなかった。明日からまた一週間が始まるというのに、貴重な自由時間のほとんどを睡眠に当ててしまった!そして、寝すぎたせいで夜に寝れない!朝起きれない!という負の連鎖が続く。


いっそのこと朝まで起きていようと、映画のDVDを借りてきたこともあるが、そんな日に限って、10時過ぎには夢の中へ旅立っているのだ。


社会人一年目は、なかなか生活のリズムがつかめない。そして早起きはいつまでたっても慣れない。



うちの院の先輩たちは、お酒好きな人が多くて仕事終わりに飲みに誘われることあった。しかし、幸いにも日曜日に誘われることは少なかった。今思えば本当に本当に有難いことだった。




今日は終日、院長が会社の会議や勉強会でいないから、少しリラックスできる。その反面、不安にも感じてしまったり。



そういえば、院長ってどういう人生を送ってきたんだろう?



今まで先輩たちの話は何度か聞いたことがあるが、院長のことあまり知らなかった。



院長はなぜ施術者になったのだろう。
院長は将来、何を目指しているんだろう。






そんなことを考えてたら、「ぼーっとすんなー!!」と、後ろから蹴りが飛んできた。



僕を蹴り飛ばしたのは、受付の長野さんだ。



長野さんは本当に面白くて、頼りになる人だった。仕事もテキパキできるし患者さんからの信頼もある。新人にも叱るところは叱り、フォローも忘れない。

柔整や鍼灸の施術のことも勉強して施術者並みに理解していたので、患者さんだけではなくスタッフや院長からも信頼が厚かった。なぜそこまで頑張れるのか、と疑問に思うほどだ。



そして、長野さんもお酒をよく飲む。
(もう一度言うが、ここのスタッフはお酒が好きな人が多い。)



長野さんはご結婚されているから、ご飯に誘ってくれるときは家事を済ませた21時頃から始まることが多く、旦那さんも一緒に来ることがあった。長野さんの旦那さんはとても優しい人で、家に招待してくれてご飯をご馳走してくれることもあった。



長野さんが、日頃よく言っていたのが、
「私はただの受付で、施術をしてあげることができないから、他で頑張るしかないの。」



でも、誰も長野さんのことをただの受付とは思っていない(だって施術者並みの知識があるから)。いつも施術者と同じ目線でいろいろ考えてくれて、一緒に戦ってくれていた。会社の目標を達成したら一番喜ぶし、喜びすぎて涙を流すこともあった。



長野さんから学んだことは、本当に数えきれないくらいある。いつか自分の接骨院を開いたら、こんな受付さんにいてほしいと本当に思っていた。




だからこそ、僕の受付に対する教育基準は、当時も今も、長野さんのなのだ。




(注)このコラムは、実話に基づいた作品です。個人情報保護のため、登場する人物・団体名。設定等は一部変更しています。

アトラアカデミーチャンネル
【提供しているチャンネル】

アトラアカデミーチャンネル